今日は、衆議院第一議員会館で行われた、TPPを慎重に考える会・TPP阻止国民会議の勉強会に、TPP差し止め・違憲訴訟の弁護団の一員として参加しました。勉強会では、「韓米FTA発効3年の評価と韓国のTPP推進への展望」と題して、韓国・全国女性農民会連盟事務局長の方が講演を行いました。以下、講演で聞いた事実と私の雑感です。
米韓FTAが発効して以来、韓国では、米国産の農畜産物の輸入額が増加し、昨年は、前年比で31.5%も増加したそうです。このあおりを受け、韓国産の農産物の価格が下落し、生産者の収入減が生じています。
安価な輸入農畜産物の増加は、国産品と同質かそれ以上の質のものが安く手に入るのであれば、消費者にとって良いことであるとの考え方もあると思います。しかし、かつて日本がレモンの輸入を自由化した際に、一旦は安い米国産レモンが入手できるようになったものの、国内(主に瀬戸内海の島々)のレモン農家がほぼ一掃された後、輸入レモンの価格が上昇し、結局レモンの価格は自由化前とあまり変わらなかったといいます。むしろ、太平洋を船で渡る間に虫がつかないようにポストハーベスト農薬をかけられたレモンしか手に入らなくなってしまったことを考えると、自由化により消費者にメリットがあるという理屈は、現実には妥当しない場合があります。地方の農畜産業を荒廃させ、都市部の消費者にもほとんどメリットがない(むしろ安全な食品選ぶことができなくなる)。貿易自由化を徹底した場合、そういったリスクが生じうることに留意する必要があります。
米韓FTAでは、貿易分野だけが問題となっているわけではありません。2013年には、VISAカードと提携する韓国のクレジットカード会社が、国内取引の決済をする際にも、海外手数料をVISAに対して支払うことを強いられていることが判明し、金融監督委員会がその是正を試みたそうです。VISAといえば国際的にも最大手のクレジットカード業者であり、その国際決済網に加盟できるか否かは、韓国の国内クレジットカード業者にとって切実な問題です。そのような力関係を背景に、国内取引にも高額な海外手数料の支払いを求めることは、どの国の法律でも競争法(独禁法)違反に当たる恐れのある行為です。
ところが、韓国の金融監督委員会がその是正措置を取ろうとしたところ、米国は、VISAの手数料に国家が介入することが米韓FTA違反であると主張し、是正措置が取られれば国際仲裁の申立てがなされると圧力をかけたといいます。その結果、韓国は、VISAが海外手数料を収取する仕組みを温存することになりました。
消費者の利益を保護するための法令に基づき不公正な取引に介入することは、正当な国家主権の行使ですが、米韓FTAがそれすら許さないものであるということは、日本が加盟交渉を続けるTPPとの関係でも、留意すべき事実です。米韓FTAは、交渉過程において、その内容は韓国の国会議員ですら知ることができず、政府間の妥結後、韓国国会の批准手続きも全文を十分に検討する間もなく拙速に採決されたと指摘されています。現在交渉が進むTPPも、日本政府は秘密保持義務を理由に交渉過程での情報開示を十分に行っておらず、国会議員に対してすら、妥結後の批准手続きにおいて初めて全文の開示がなされる予定です。
問題の多い米韓FTAを他山の石とし、我が国の国益を損なわないようにするためにも、TPP交渉の過程は国民、少なくとも国会議員に対して十分に開示し、国内の議論を踏まえながら交渉を行うべきです。開示を行わないということは、開示すれば国内の反発が起こることを予想しながら、我が国とって不利益となりうる交渉を続けていると疑わざるを得ません。少なくとも交渉の内容が十分開示されない限り、私はTPPに反対する運動に参加し続けたいと考えています。2015.03.26 |
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