英国におけるPPP/PFIに関し、グリニッジ大学でDavid Hall教授の話しを聞きました。 Hall教授は、PSIRU(国際公務労連の研究機関)で公共政策を研究してきた方で、英国労働党の公共政策に影響力を持っています。
英国でのPPP/PFI導入時の議論から、PPP/PFIの構造上の問題、そこから生じた失敗事例、そして再公営化の検討まで、2時間にわたる充実した講義と質疑、さらに食事をしながらの議論の機会をいただきました。
詳細についてはどこかでレポートする機会があると思いますが、簡単に、
・PPP/PFI導入時の議論において、現在顕在化しているPPP/PFIの問題点については既に指摘がなされていたが、「財政難のため他に選択肢がない」という主張に対抗することが困難であった。
・SPV(特定目的会社)とプロジェクトファイナンスの手法を用いるPPP/PFIでは、株主配当と(公債と比較して)高い資金調達コストが、施設・サービスの利用料金や委託料の上昇圧力として機能した。
・他方で、事業リスクの移転や事業効率の向上という(主張されていた)メリットは実現が困難であった。ロンドンの鉄道事業、マンチェスター市のごみ処理事業、倒産したカリリオンなど、失敗事例も国民の論議を呼んだ。
・こうした中で、国民一般だけでなく、議会においても、PPP/PFIを問題視する議論が広まっていった。
・労働党は、サッチャー政権以来の民営化路線に正面から異論を唱えることに躊躇していたが、ジェレミー・コービンが率いた昨年の総選挙で水道とエネルギーを再公営化すると訴え、それが国民の支持を得た。
・現在では、保守党、労働党を問わず、PPP/PFIを擁護する論調はなく、最近も下院の委員会レポートで問題点が指摘されている。フィナンシャルタイムズもPPP/PFIの失敗を論じる状況にある。
・労働党は、昨年の総選挙での公約実現のため、原則として全てのPFI案件を再公営化する手法と財政的手当に関する政策検討を行っている。
・マンチェスター市では、ごみ処理事業のPFIが失敗し、市がSPV(特定目的会社)の支配権を1ポンドで譲り受け、公債発行によりSPVの債務をリファイナンスし、事業を再公営化した。同様の手法を適用することが考えられる。
というものでした。
3年以内に行われる次の総選挙の結果次第では、労働党が検討する再公営化が、政府の政策として実現される可能性もあります。 他方で、投資家との再交渉の困難さ、財政負担が英国経済に与える影響、投資協定との抵触など、様々な検討課題があるように思われ、これらについても議論をすることができました。
英国は30年近くPPP/PFIを経験し、日本はこれから本格化しようという段階にあるため、現在英国で行われている議論が、そのまま日本の検討課題になるということはありません。 しかし、PPP/PFI推進施策を実行し、その出口を苦労して模索している英国の状況は、日本の未来の姿を暗示しているようにも思われます。 「財政難のため他に選択肢がない」という主張に抗することができなかった結果、どういうことが生じたのか、よく見ておく必要があります。
講義を受けたグリニッジ大学は、テムズ河畔の元王立海軍学校の跡を利用して運営されています。構内各所や学外の街並みにその時代の名残があり、有名なカティ・サーク号も近くに展示されていました。 |
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